【第1話】吉原と、はじまりの千成もなか
郷土玩具とご当地エロス
今年の2月、吉原のソープ街の近くにある遊郭専門書籍を取り扱う「カストリ書房」まで絵の展示【セクシーご当地ネオン画展】を観に行った。
大好きなネオン画アーティストの「はらわた ちゅん子」さんの作品展示で、全都道府県の郷土玩具と、各地の土地柄を反映したご当地エロスがテーマの展示である。
日本の首都は東京。その東京のエロスといえば吉原。エロスの総本山みたいな吉原で全国各地のエロスを感じることができるなんて、なんだかとっても煩悩が溢れてマジカルバナナだ。
ちなみに私は板橋区の都営三田線沿線に住んでいる。 巣鴨まで三田線で行き、都営バスに乗り換えて吉原の近くまで行くのが時間はかかるが乗換がなく楽なルートだった。
差し入れを考える
展示初週の土曜はちゅん子さんの在廊初日。 週末で展示は混んでるだろうけど、ちょっとしたお菓子を差し入れしたいと考え、巣鴨駅周辺にあるお菓子を売るお店を何軒か覗いてみた。
そうだ、もうすぐバレンタインデーだった。 駅前の老舗和菓子店を覗いたら真っ赤なハート型の練り切りがあった。可愛いけどこれは片手で手軽に食べにくい気がする。 団子もいいけど味の好みがあるし、すぐに食べてもらえるとは限らない。何より時間が経つと硬くなってしまう。 巣鴨名物の塩大福も美味しいけど粉が舞うし、どうしよう…
ひょうたんの形のもなか
あ、そうだ!千成もなかはどうだろう? あれはひょうたんの形だし、郷土玩具のテーマにもマッチしそうだ。 確か1個100円くらいで値段も手ごろ。日持ちするし、それに贈答用の箱の絵が脱力系で面白かった気がする。
バスの時間まであと5分。急いで白山通りの横断歩道を渡って入店。 名物の焼きたてのあんバターどら焼きが食べられるイートイン席が空くのを待つ人たちを掻き分け、5個入りの箱を持ってレジへ向かう。 定番のつぶ・こし・しろの他、うめ・ごまを加えた5種類の餡が、それぞれ違う色の皮に入っている非常にカラフルで可愛らしい最中だ。
ちゃっかり自分が食べる分のバラ売り2つも一緒に買ってしまった。私にはそういう可愛いところがある。こしあん派なのでしろ&こしにした。
千成もなかの箱の画像。赤い背景で、幼い子ども2人を含む5人の人物と白い犬が楽しそうに和菓子を食べている絵柄で、「福が舞い込む」「東京名物」「大塚・巣鴨」の文字がある。下に敷いているのはお店オリジナルの、いろはかるた柄の袋。
千成マダム
このお店はバラ1個の購入だけでも小さなフードパックに入れてくれる。 なんとなくそれを申し訳なく感じ、パックに入れなくても大丈夫ですと伝えたところ 「最中はすぐ潰れちゃうから気にしないで…」と割烹着姿のベテラン感漂うマダムが返答してくれた。
ここ巣鴨の支店には若い店員さんもいるが、マダムたちが非常にテキパキ働いているのが大変印象的だ。 自分がマダムたちと同じ年齢になったときにあんなにテキパキ働ける自信がない。 なお公式サイトではオンライン販売も行っているが、お店では現金支払いのみ。
もなかの箱を入れてもらった袋はお店のオリジナルで、レトロないろはかるたの絵が描いてある。 そうそう、以前に店内で焼きたてのあんバターどら焼きを頂いた際に、この絵柄の紙が敷いてあったのをふと思い出す。 そのときはミニサイズのどらやきの皮をおまけにくれた。
店頭では何もはさんでいないどら焼きの皮を和風パンケーキと称して販売している。 なかなか人気のようでよく売り切れているのを見かける。また店内で食べるお客向けにセルフの麦茶サービスもある。 おっとそうこうしているうちにバスが来そうだ。ダッシュで横断歩道を渡った。
千成もなか巣鴨店のイートインコーナーで、焼きたてのあんバターどら焼きを食べた際の画像。つぶあん入りのどら焼きに、大きく切られたカルピスバターが挟んである。
初めての吉原
乗ってから40分くらいかかっただろうか。竜泉というかっこいい名前の停留所で降りた。台東区ってかっこいい地名が多い気がする。 アプリの地図を頼りに住宅街を抜けてカストリ書房に辿り着いた。店内は本を探しに来たお客さんに加え、展示を観に来た多くの人たちでとても賑やかだった。
吉原に来たのは初めてで、ちゅん子さんに直接お会いするのは二度目。 前回は昨年の夏の展示で、その時もささやかな差し入れをした。新宿で見つけた、ネオン画で不二家のペコちゃんの絵が描いてあるポップアップストア限定の缶入りミルキー。かわいくて自分の分もちゃっかり買ってしまった。
「去年の夏、ミルキーの缶を持って行った者です」と名乗って挨拶し、今回もまた少しですが差し入れ持ってきましたと言ってお渡しした。 箱の絵と、中身の形が面白いからできればすぐ開けて見てほしいですと付け加えて。
千成もなかの箱を開けた時の様子。桃色の皮のうめ、緑色の皮のごま、茶色の皮のおぐら、白い皮に入ったしろ、薄紫色の皮のこしあんの5個入り。説明書きの紙には「食べたら福が舞い込む縁起物。なんともかわいらしい、ひょうたん型の色とりどりの最中」と説明が書いてある
ちゅん子さんはすぐ開けて見てくださり、とても素敵な笑顔を頂戴できた。 このお菓子の「福が舞い込む」というキャッチフレーズが面白く縁起がいいし、展示のテーマ的にひょうたんの形が似合うと思ったんですと伝えると、 「可愛い!めっちゃ合ってます~!」と大変喜んでもらえて、しみじみうれしい。 かるたの柄の袋の絵も可愛いと感動してもらえて、今日の道中で買うことができた物の中ではベストチョイスだった。
そして贅沢なことに、ちゅん子さん本人の説明をお聞きしながら絵を拝見することができた。 私が「ちゅん子先生」と呼ぶとちゅん子さんは「そんな、先生なんて恐れ多いです!」と謙遜されるが、 こんな素敵な絵の世界があることを教えてくれた方だから先生なのだ。
ちゅん子先生のネオン画はポップでかわいいのに、ふとどこか寂しい感じが漂うところが大好き。 絵に登場する女性のボディラインが美しいのも魅力的で、拝見する度、描かれた世界にふと入ってみたくなる。 向こう側から手招きされているような感覚がある。大阪の宗右衛門町にある、夜のお店の案内所のネオンに採用されているのも納得だ。
今日の記念として昔の吉原の地図をネオン画で再現したクリアファイルと、 「十八歳未満の方はお客さんとしての入店をお断りします」とデザインされたステッカーを購入し、大賑わいの店内を後にした。
吉原の端っこ散歩
外は晴れていたが日陰に入った際に吹いてきた風が冷たくて耐えられず、自販機でホットの缶コーヒーを買って飲みながら歩く。 放映中の大河ドラマの影響もあるのか、書店のすぐ近くの吉原神社には若い女性二人組の姿も目立っていた。
ドラマを観ていないことをちょっと後悔しつつ、行きの系統と異なる停留所の椅子に座る。私は遠出したら違うルートで帰らないと気が済まない性質なのだ。 バスを待つ間に水筒に入れてきた白湯を飲みながらバラで買った「こし」と「しろ」を食べることにした。
千成もなか本舗のもなかも、あんバターどら焼きも何度か口にしたことがある。 そうだよそうそう、千成もなかはパリパリした皮ではなく、飲むように食べられる薄く滑らかな皮だ。食感は赤ちゃんが食べる煎餅のような感じで、餡にぴったりくっついている。
「こし」と「しろ」はあんこの甘さも控えめでさっぱりしている。幼い頃は和菓子の最中の皮にある独特の香ばしさが苦手で長年食わず嫌いだったが、きっとその頃の自分でも千成もなかであれば好きになっていたかもしれない。
バス停で食べたこしあん入りの千成もなか。薄紫色のひょうたん型の皮に、「千成」の文字が入っている
ネオンに照らされたピンクのもなか
帰宅後にSNSでちゅん子さんの投稿を見たら、ピンク色の皮の「うめ」の千成もなかが、今日観てきたばかりの展示風景の中に佇んでいる写真があった。 なんと言ったらよいのか、色とサイズがまるで大人の玩具のように見え、ほの暗い展示空間の奇しい雰囲気に健気な可愛さとおかしみを添えている…! エロと食は混ぜるな危険なのに、ちょうどよくマッチして新視点。さすが俺たちのちゅん子先生だぜ!
はらわた ちゅん子先生のSNSにポストされた展示風景の様子。岐阜県飛騨地方の郷土玩具・さるぼぼと戯れるセクシーな女性の絵をバックに、ピンク色の千成もなかが置かれている。※この画像は作者ご本人の許可を頂いて掲載しています。
さらに私の差し入れが嬉しかったという理由で、千成もなかのネオンアートを作成してくださった投稿まであった。 嬉しすぎて変な声が出た後、すぐにiPadの待ち受けにした。
しかも次の週末には展示作品が新たに追加されるという。 これはまた行かなくてはならない…もなかの絵のお礼にまた何か差し入れしたい…。
はらわた ちゅん子先生が描いてくださった「千成もなか」のネオンアート。カタカナで「東京にたった一軒」、「五色あん」、「千成モナカ」の文字と、ピンクのひょうたんがカラフルなネオンサインのように描かれている。※この画像は作者ご本人の許可を頂いて掲載しています。
たぬきの形の最中
今日の帰りに気づいたけど吉原方面は都電の駅も遠くないから、次は王子経由で行くのもいいかもしれない。 そうだ!
-「王子 最中」検索-
ええぇ、たぬきの形の最中がある! どうも店構えに見覚えがあると思ったら、以前の職場への通勤に使っていたバス通りにあるお店じゃないか。
毎日毎日その前を通っていた。王子から板橋方面への帰りのバスの時間が合わない時は周辺でお茶したり、夕飯のおかずを買ったりしていたのに、こんな可愛い最中を売っていたことを今日まで知らなかった。何も知らなかったことがちょっと恥ずかしくなった。
次回予告
次回、「ふたたびの吉原へ。王子・狸家の「狸最中」の回」
ちゅん子先生やカストリ書房の御主人との何気ない会話から、これからの活動のヒントを見つけることができたのだった。